──越前おろしそばを逗子で、二つのルーツを味に込めて──

　越前そばというものをご存知だろうか。こしの強い太めのそばを、大根おろしたっぷりのつゆでいただく。店主の森本雅之さん曰く、関東に多いつるつるとした“飲むそば”ではなく、“しっかり噛んで食べる”そばだ。
　大根おろしのつゆは辛めの味で、戸惑う人もいるが、くせになる味にファンも着実に増えている。サクサクの天ぷらとの相性も抜群だ。太めの麺は殻もまるごと挽いているため、色は黒く太くて歯ごたえもかなりしっかりある。「田舎そば」として限定20食での販売だ。
　森本さんは平成17年にあん彦を開業した。店は8年目を迎えた。
　あん彦という名前は、過去に祖父が福井で営業していた旅館の名前だという。今は無くなった屋号を孫の森本さんが復活させたというわけだ。
　つまり森本さんは逗子で育ったが、福井にもルーツを持っている。子供の頃から食べていたあのおろしそばの味が忘れられず、縁があって福井のそば店で修行をすることができ、逗子の地での開業にこぎつけた。
　「逗子が好きだから、この街を元気にしたい」と森本さん。太めの麺に福井と逗子の味と香りをしっかり込めて。今日も森本さんは、そばを打つ。

「かながわ商店街新聞平成25年2月号より」